食物繊維を多く摂っている人ほど、認知症になりにくい
2022.03.01
食物繊維と言えば、「お腹にいい」「健康にいい」というイメージをもつ人が多いと思います。食物繊維のもつ健康効果は、多くの人が思っている以上かもしれません。
このたび、筑波大学の研究グループが、日々の食事のなかで食物繊維を多く摂っている人ほど要介護認定に至る認知症(要介護認知症)を発症するリスクが低くなる、と発表しました。このことが明らかになったのは、世界で初めてだそうです。
食物繊維の摂取量と認知症の発症リスクを分析
研究の対象となったのは、日本人の健康に関する大規模な研究「CIRCS研究」(Circulatory Risk in Communities Study、地域における循環器リスク研究)において、1985年から1999年の間に40~64歳で、栄養調査に参加した秋田、茨城、大阪の地域住民3739人です。
1999年から2020年までの最大21年間にわたって追跡し、その間に、どのぐらいの人が要介護認知症を発症するかを調査しました。
また、前日の食事内容を聞き取った情報をもとに、食物繊維(水溶性、不溶性)と、食物繊維を多く含む食品群である「いも類」「野菜類」「果物類」の摂取量を計算し、それぞれの摂取量に応じて対象者を4つのグループに分類。そして、認知症の主なリスク要因を統計学的に調整したうえで、食物繊維摂取量が下位25%のグループに対する他のグループの要介護認知症リスクを調べました。
とくに水溶性食物繊維が多いと、認知症リスク低下
追跡期間中に要介護認知症を発症したのは670人でした。
食物繊維の摂取量が最も少ないグループ(下位25%)と比べた要介護認知症の発症リスクは、2番目に少ないグループ(25~50%)では0.83倍、2番目に多いグループ(50~75%)では0.81倍、最も多かったグループ(上位25%)では0.74倍と、食物繊維の摂取が多い人ほど要介護認知症の発症リスクが低下する傾向が見られました。ただし、この関連が見られたのは、脳卒中の既往を伴わない認知症においてのみだったそうです。
また、食物繊維には、水に溶ける「水溶性食物繊維」と水に溶けない「不溶性食物繊維」の2種類があります。このうち、とくに関連が見られたのが水溶性食物繊維のほうでした。
水溶性食物繊維の摂取量が最も少なかったグループ(下位25%)と比べた、要介護認知症の発症リスクは、2番目に少ないグループ(25~50%)で0.72倍、2番目に多いグループで0.77倍(50~75%)、最も多いグループ(上位25%)で0.61倍と、より強いリスク低下傾向が見られました。
さらに、いも類の摂取量についても同様の関連が見られたものの、野菜類や果物類ではこうした関連は見られなかったそうです。
なぜ、食物繊維が認知症を減らすのか
食物繊維の摂取量が多いほど要介護認知症の発症リスクが低くなることが疫学的に示されたのは、この研究が世界で初めてだそうです。
では、なぜ食物繊維を多く摂っている人ほど、認知症の発症リスクが低くなるのでしょうか? 研究グループによると、関連が見られた「脳卒中の既往を伴わない認知症」の多くはアルツハイマー型認知症と考えられ、「食物繊維の摂取が腸内細菌の構成に影響を与え、神経炎症を改善したり、他の認知症危険因子を低減することにより、認知症発症リスクを低下させる可能性が考えられ」る、とのこと。
食物繊維は、認知症予防だけではなく、食後の血糖値の急上昇を抑えること、血中のコレステロール値の低下、高血圧予防などにも効果があると言われます。ぜひ意識的に摂りましょう。
◎参照
筑波大学 プレスリリース
「食物繊維を多く摂る人は要介護認知症の発症リスクが低下する」
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220210140000.pdf
Nutritional Neuroscience
「Dietary fiber intake and risk of incident disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study」
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1028415X.2022.2027592